曾根うどん

  • 2014.11.22 Saturday
  • 21:11
高倉山の麓、曾根という村に大そう美味いと評判のうどん屋がある。
健サンという名の麺打ち職人は、一本気でいつも黙々と汗を流し手打ちのうどんをこしらえた。
健サンのつくるうどんをお客に出すのがまだ若いキイチ。
高倉山の斜面は段々畑になっていて、見晴らしのよい屋外にお昼時だけの営業になるが、卓を並べお客は景色を眺めながら食べるのが、名物「曾根うどん」。風流だと人気のお店。

健サンのいる厨房小屋から会計や注文を受けるキイチのいる場所はずいぶん離れていた。間にがらんと広い畑のフロアに見晴らしのいい卓が並ぶ。
キイチが注文を受けると手を広げ大きく合図して、それを健サンが厨房小屋の小窓から目で確認して麺を打ち、うどんを一杯ずつこしらえる。
こしらえたうどんはチエちゃんという娘が運ぶ。

異常なくらい天気のいい行楽日和なある日のこと。
見晴らしはいいし、うどんは美味い。たくさんのお客で「曾根うどん」始めて以来の大変な繁盛でキイチはくたくたに草臥れた。
大盛況で店を閉め、チエちゃんは帰り、キイチはお客のいない客席にもたれ、手を広げ背を伸ばしあくびした格好のまま眠ってしまった。

キイチはどのくらい眠ったのか。ハッと目が覚めたのはもう日が暮れる頃。
健サンのいる厨房へ行くと、健サンは100杯くらいの丼にのったうどんを並べ、今もなお一心不乱に麺を打ち続けている。
びっくりしたキイチが健サンを止めに入ると健サンも目を円くして、どうしたんだという顔をしている。
寡黙な健サンは、チエちゃんがなかなかうどんを取りに来ないからおかしいなあと思いながらも作り続けてたそうな。
健サンがなんで作り続けてたかと言うと、キイチがずっと手を広げて合図をしていたからである、と言う。

この日は異常なくらいの好天気。異常なことはあるものである。
厨房の小窓から健サンが、いつもと同じようにキイチの居る会計場をのぞくと、ずっとキイチが手を広げ合図し続けていた、と健サンは言う。
おかしいなあ、キイチはずっと眠っていた。手を広げた格好のままで。

異常なことはあるものである。
二人が小窓をのぞくと会計場にさっきまでキイチが居た客席の椅子が映っていた。
…サンサンサン、山の斜面に降り注ぐ太陽の反射によるいたずらか。
健サンには、眠ってるキイチがずっとうどんの注文の合図をしているように見えたのだった。
そういうことか、とキイチが言うと、「そ、そーね(曾根)」
と、健サン応える。

高倉山に 陽はまた上り 陽は沈む。

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